「文書の解読は以上であります。この内容から察するにこの水成型惑星T-KG8542-14は時間の流れから逸脱したものと考えられます」
「原因は?」
「現在調査中であります」
「この男性以外に同じような体験をしたと思われる人間は見つかったのかね?」
「はい。現在この星の中で12名が見つかっております。うち8名が自殺しておりました」
「残りの4名は?」
「はい。4名のうち2名は錯乱した模様で、1名は部屋の壁中に自分の名前を書き続けており、もう1名は銃火器によって大量の人間を射殺しておりました。その被害者は数万人に及ぶかと思われます。最後は自らの口腔に銃を突っ込んだ状態で動きが止まっていました。3人目は手漕ぎボートに乗って海の真ん中で発見されました。おそらく他の国へ行こうとしていたものと思われます。この現象を詳細に書き留めていたのはサクラダトモキのみでありました」
「この星の時間が完全に止まってしまったわけではないのだね?」
「はい。調査隊が調べたところ、わずかずつではありますが時間は動いておりました」
「わずかとは?」
「一人の被験者を選び出し、10日間観察したところ、まばたきを一回したそうです。まばたきを0.2秒と換算すると、『432万分の1』という早さで時間が流れている計算になります」
「現在、このサクラダトモキは?」
「はい、生きています。この文書にあるとおり意識のみが元の時間で流れている可能性があります」
「意識があるのに動けない。悲劇だな。いや地獄といってもいいかもしれない」
「現在、サクラダトモキを含め4名の身柄を確保し調査中です」
「現在のT-KG8542-14はどうなっているのかね?」
「はい、サクラダトモキの文書中にもあります時計を確認したところ、現在午前4時51分を示しておりました。おそらく普通の日常を送っているものと思われます」
「彼らにとってはわずか数分が、我々にとっては数百年ということか・・・」
「時間の流れはこの宇宙全体で不変のものと考えられておりましたが、どうやらその常識は覆されるものと思われます」
「もともと時間は不変なものではないよ」
「と言いますと?」
「この水成型惑星T-KG8542-14では一回自転することで24時間、つまり1日経過したと考えている。同じ単位で我が星を見てみれば一回自転するのに48時間かかっている。つまり水成型惑星の人間から見れば、我々は彼らの2倍の長さで1日を過ごしている。にも関わらず互いの寿命の長さはほぼ変わらない。彼らにとって私たちは短命に見えるだろう。生きている場所で時間は変わる、そう思うのだがね」
「そのご意見に関して私の私見は遠慮させていただきます。ただ私が思うのは、この星の人間はタイムマシンに乗ったと思います」
「タイムマシン?」
「はい。この水成型惑星の人間が目を覚ますころには、おそらく我が星の存在も怪しいものです。彼らはわずか一時間程度で、数万年を超えるのです」
「なるほど、いかにもタイムマシンだな。そう言えば、あの星はタイヨウといわれる恒星の周りをまわっているのだったね」
「はい。その恒星はあと50億年ほどで巨大化し、水成型惑星を飲み込むと言われております」
「彼らの時間感覚で言うと?」
「46時間後あたりではないかと」
「彼らの寿命はあと二日か。タイムマシンも考えものだな。ご苦労だった。引き続き調査を頼む」
「はい」
「あ、ちょっと待ってくれ」
「はい?」
「あの水成型惑星T-KG8542-14、たしかチキュウと呼ぶのだったね」
「はい。彼らはそう呼称しておりました」
「どのような字を書くのかね?」
「彼らの使用する漢字を詳しく調べていないので何とも言えませんが、おそらく『遅球』ではないかと」
「なるほど、名は体を表すということか。ありがとう、下がっていいよ」
~了~
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