BACK from BACKを書いていた頃

BACK from BACKを書いていた頃

過去、座付き作家として15年所属していた劇団がある。旗揚げから2年目か3年目くらいの頃の話だ。

書き下ろしで4本ほど提供したくらいで、僕は煮詰まっていた。昼間仕事もしていたし、コンスタントに物語を考えて書くという時間もリズムもなかった。それでも公演の日は決まる。

他のメンバーの書いた台本をやってもらって、考える時間を貰ったりしていた。

僕はコメディがやりたかったので、コメディになるシチュエーションをずっと考えていた。

病院、新聞社、ボクシングジム、ラーメン屋…僕の思いつく面白くなりそうな話は大体書いた。

コメディで一番やりたくないのは、テレビのコント番組で使われているようなシチュエーション。

お葬式や学校コントなどは定番で、笑える要素はたくさんあるが使いたくない。

で、考えたのが「劇団」の話である。これはもう自分のテリトリーだし、ストーリーはいくらでも思いつく。

しかし、である。

僕はそれを書くか悩んだ。だって劇団が劇団の話をやるなんて、王道だし裏話も分かるから面白くなるのは分かってる。いわば伝家の宝刀を抜いてしまう感じだ。

つまり、早くもそれを抜いてしまって良いのか?という葛藤である。

それをしてしまったら、今後自分の首を締めることになるのではないか。楽に書いてしまって良いのか、次は別の話を書けるのか…

悩んでいた。

以前、劇団のメンツと飲む機会があって、次回作の話になったことがあった。

いやぁ、なかなか思いつかなくてさぁ、なんて話をしたら、座長が「書きたいもの書けばいいんだよ、何でも実現させてやっから、俺たちに任せとけ」と言われた事を思い出したのだ。

そっか、と。

僕は一人で何を悩んでるのだ。書きたいもの書けって言われたじゃないか、仲間を信じろって言われたじゃないか。

僕の仕事は今後の心配をすることではなく、今一番面白いと思うものを提供することなんだ。

気が楽になり、顔合わせまでの2週間でBACK from BACKを書き上げた。

その作品は評判もよく、何度も再演された。

そして20年経った今でも上演される。

あの時座長に言われた言葉は脚本に反映されている。

彼はもうこの世にいないが、彼の言葉はまだ僕の中で生きている。

仲間を信じて、今も書きたいものを書かせて貰っている。

空間旅団の芝居は小難しくて分からないと言われがちだが、仕方ない。

今僕が書きたいものなんだから。

コメントを残す