映画脚本で騙された話

映画脚本で騙された話

スリランカが国家の破綻宣言をしたというニュースを数ヶ月前に聞いた。

スリランカという国名を聞くたびに、ふと思い出す話がある。

17年ほど前のことである。

僕は知り合いの紹介で、K氏という音楽プロデューサーを紹介してもらった。K氏は僕の大好きなミュージシャンを世に出した人で、名前も知っていたし知り合いになれたことがとても嬉しかった。

そのK氏が音楽監督をする映画があり、まだ動き出したばかりの企画だから脚本家としてプロデューサーに紹介してあげるという話になった。もしかしたら脚本のお手伝いができるかもしれないと嬉々としてそのプロデューサーに会わせてもらった。

(その人もK氏なので、映画の方はKK氏と書かせてもらう)

そのKK氏は、物価の安い国(フィリピンやタイ、ベトナムなど)を舞台に、ギャラの安い無名若手俳優を使って格安Vシネマなどを作っている人だった。

とは言え、作品を作っていることは間違いないので、もしかしたら名も無い劇団の無名脚本家でも書かせてもらえるかも知れないという淡い期待もあった。

音楽PのK氏と共にKK氏に会わせてもらい、構想中の映画の話を聞いた。

「日本とスリランカの共同出資で両国の友好合作映画を作る」というデカい話だった。

しかも話の筋は大方出来ているという。

プロデューサーKK氏の考えたあらすじはこんな感じだ。

「時代は太平洋戦争真っ只中。

日本はアメリカに宣戦布告をして、南雲忠一率いる第一航空艦隊が真珠湾攻撃を行なった。

奇襲は成功し、その後も南雲第一航空艦隊はジャワ、ニューギニア、インド洋などを転戦し連戦連勝していき、1942年セイロン(今のスリランカ)沖海戦に突入する。

その時、第一航空艦隊所属の戦闘機が被弾し、セイロン島に不時着する。

瀕死の重傷を負ったパイロットはセイロンの娘に介抱され、命を取り止める。

怪我が治ったら再び戦地へ向かいたいパイロットと、彼を引き止めたい島の娘の恋物語」

まあ、そんな話。

で、その脚本を僕に書いてもらいたいというのだ。

格安Vシネマではなく、一般商業映画。しかも日本スリランカ合作!?

おいおいおい、である。

しかもK氏は当時僕が在籍していた劇団の座長のことを気に入っており、彼を主役にしようと勧めてくれる。

座長、脚本家ともに商業映画デビューかと、体が震えたことを覚えている。

スポンサーから資金を集めるために、第一稿でいいから脚本がほしいと言われ、僕は太平洋戦争の資料をできるだけ集めて必死に書いた。

座長も、戦時中だからということで頭を坊主にして、イメージ作りを始めた。

一ヶ月ほどで脚本を書き終え、KK氏はそれと企画書を持ってスポンサー(主にスリランカ側)からある程度の前金を集めたらしい。で、実際にスリランカへ行ってロケハンをするという。僕は行けなかったが、写真や動画を撮ってくるので、それを参考に第二稿を書くという約束だった。

で、実際にKK氏はスリランカに行き、写真を見せてくれた。

ここの浜辺の夕日がキレイだからそのシーンを入れよう、主人公をこの岩場に座らせよう、などなど打ち合わせが進み、僕は第二稿に着手し始めた。

しかし、である。

それきりKK氏から連絡がぷっつりと切れたのである。

もしかしてヤバいと気づいたのは、僕の携帯に駐日スリランカ大使館から電話が来たからである。

「KK氏と連絡が取れない。もしかしたら騙されたかもしれない。あなたは彼の居所を知っているか」という内容であった。どうやらKK氏は僕の連絡先もスリランカ側に伝えていたらしい。

おそらく、僕も加担していると思っていたのかも知れないが、直ぐに電話に出たのと、驚き具合から「ああ、こいつも騙された側だな」と判断されたようだ。

「とにかくKK氏と連絡がつくまで、この話は進まない。脚本も書かなくて良い」と言われ、全てが止まった。

KK氏を紹介してくれたK氏も寝耳に水だったらしく、困惑していた。

その後、KK氏が逮捕されたという話も聞かなかったので、おそらく裏でスリランカ側と和解か何かあったのかも知れない。

しかし僕には何の情報も入って来なかった。KK氏が本業のVシネマに戻った様子もない。

金銭も着手金レベルだったようなので、そんな大金は動いていないはずだ。

でも僕は脚本代も貰えず、座長は坊主にして、ふたりとも大損だ。

まあ、冷静に考えれば、本気でそんな合作映画を作りたいなら、僕たちみたいな名も無い脚本家と役者に話は来ないよなあと、今なら分かる。

ギャラは貰えなかったが金銭的損失はなかったし、太平洋戦争や南雲航空隊のことは勉強になったので、授業料ということで今は笑い話である。

「うまい話は転がっていない」ということを身をもって知ったわけである。

追記

KK氏を紹介してくれたK氏は、この件で僕に悪いと思ったのか、後日別の話を持って来てくれた。でも結局それも詐欺まがいの話で、僕はK氏と裁判するか?しねえか?と言い争うことになるのだが、それはまた別の話。

(こうなると、スリランカの件、K氏も噛んでたんじゃねえか?と疑いたくもなるwww)

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