最後の7日間(3)

最後の7日間(3)

7月2日(土)

四時起床。どうもおかしい。日ごとに朝が早い。

いや、今日はそれだけではない。どうもよくわからないことが続いた一日だった。

順を追って書いていく。

朝食を食べている時、妻にせっかちに食べすぎると言われた。自分はそんなつもりはまったくないのだが、妻がトーストにバターを塗っている途中に、すでに私は一枚食べきってしまった。もっとゆっくり食べればいいのに、と言われても、私は普段通りの手順でバターを塗り、焦る必要もなく食べているだけなのだ。

今日はショッピングセンターへ買い物に行く約束だった。しかしいくら待っても沙織が起きてこない。休みなんだから少し朝寝坊させてあげて、という妻の言葉はわかるのだがいくらなんでも起きてくるのが遅すぎる。心配になって起こしに行くが、時計を見るとまだ九時前だ。私はすでに十時をとっくに過ぎている感覚だったのだが。

車に乗って、郊外に昨年できたショッピングセンターに出かける。私が運転したのだが、アクセルの踏みすぎで時速80キロオーバーを出してしまう。妻に言われてあわててスピードを落とした。安全運転が信条の私がスピードオーバーをしてしまうとは。しかし、周りの車に合わせて走ると、どうも遅い気がしたのだ。スピード感覚がおかしくなってしまったのだろうか。途中で妻に運転を変わってもらった。助手席から周りの風景を見ると、やはり遅い気がする。他の車に迷惑なんじゃないかと心配になりスピードメーターを見るが60キロと表示されている。問題ないスピードだ。

きっと疲れているのだと自分に言い聞かせ、黙って座っていることに決めた。

ショッピングセンターに到着し、沙織の玩具や明日からの食材を買う。三人で歩き回るのだが、どうも私一人だけ早足になっているらしい。すぐに妻たちと間が離れてしまう。気を使って歩幅を妻たちに合わせるのだが、疲れるばかりだ。

ふと田舎に帰ったときのことを思い出す。都会の歩幅と田舎の歩幅が違うと思ったのだ。あくせくと人波を縫うように歩く都会での生活が長いと、田舎でも同じように歩いてしまう。田舎の父親はそんな私を見て、そんなに急いでおまえどこへ行くつもりだ?と笑っていた。まさにそんな感覚だ。

昼食は沙織がお寿司を食べたいと言うので、ショッピングセンターの中に併設されている廻る寿司屋に入る。寿司が好きな割に沙織は玉子とのり巻しか食べない。ここでも私はイライラした。皿のまわってくるスピードが遅いのだ。皿を回すスピードに決まりがあるのか知らないが、いくらなんでも遅すぎると思った。妻にそのことを話すと、家族連れが多いからわざとゆっくりしてるんじゃないの?と言われた。確かに回転が早すぎては沙織がお皿を取れないのも分かる。

でも私は遅いとは思わないけど、と妻に言われた一言が気になった。やはり私の気のせいなのだろうか。

その後施設内にあるゲームセンターで遊んだ。沙織がもぐら叩きゲームをやりたいと言い出す。沙織がはじめにやるが、半分しか叩けなかった。次に妻がやる。同じく半分だった。私にはもぐらの出てくるスピードが遅いような気がした。なんでこんなに遅いのに半分しか叩けないのだと思った。私がやってみるとなんと全部叩けた。パーフェクトおめでとうの文字が電光掲示板に踊る。妻や沙織が凄い凄いと喜んでくれるのだが、私にとっては何の造作もない。この早さは子供用なのだろうと思えるレベルだった。

それからいくつかのゲームをやった。名前は忘れたが、リズムに合わせて足を踏んだり指定の場所を叩いたりするものや、エアホッケーなどだ。私はことごとく高得点を叩き出し、沙織のヒーローとなった。ゲーム苦手だったんじゃないの、と妻にも驚かれそれはそれでいい気分だった。

夕方帰宅。無性に腹が減っている。しかしまだ五時過ぎだ。昼に寿司を食べてからまだ四時間もたっていない。

どうやら身体がおかしいらしい。私の中で異常な事態が起こっているという胸騒ぎがする。

夕食後、まだ八時だというのに無性に眠い。今、気合いでこの日記を書いている。この不思議な事態を書き留めておくためにもこの日記を休むわけにはいかない。

明日は野球だ。早めに休もう。

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